溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
「あの、聞いていいですか? 私のどこを好きになってくれたんですか?」
切れ長の目に捕らえられたまま、躊躇しながら問う。
「年も離れてるし、部下だし、鈍感だし、別に美人でもないもんな」
「なっ、当たってますけど、人に言われると傷つきます」
口を尖らせ反論する。すると九条さんが小さく鼻で笑った。
「よく食うとこも、見知らぬ土地で一人で踏ん張ってるとこも、よく笑うとこも、頑張り屋なとこも可愛いと思ってた。でもどこって決め手があったわけじゃない。ただお前がお前だからだと思う。そこに理由なんてねぇよ」
九条さんらしい口調でそう言われ目頭が熱くなる。
「私は私でいい」前にもそんなことを言ってくれて嬉しかった。できそこないの私を否定せず、それでいいのだと肯定してくれた。誰も言ってくれなかったことを、九条さんはあっさりと言ってくれたんだ。
「なに涙目になってるんだよ」
「ご、ごめんなさい。嬉しくて」
そんな風に私のことを評価してくれる人がいる。好きでいてくれる人がいる。ただそれだけで胸の奥がじわりと熱くなる。