溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜

私はずっと、自分はダメな人間だと思っていた。自分に自信がなかった。それは島の議員である厳格な父と、専業主婦の母に植え付けられたものだといっていいかもしれない。

物心ついたときから私は暗い、子供らしくない、女の子らしくないと言われ続け、私という存在を否定され続けていた。

彼ら曰く、外で思い切り走り回るのが子供らしくて、スカートを履いて愛嬌を振りまくのが女の子らしくていいのだと。

それらを常に求められたけど、私はどちらも苦手だった。好きな遊びは家の中で絵を描くことだったし、人見知りも酷かった私は愛嬌なんて振りまくことなんてできなかった。

そんな彼らの思い通りにならない私は、二人から見放されるようになり、後に生まれた妹ばかりが可愛がられた。妹は女の子らしくて、活発で、素直で、両親の思い描いたような理想の子供だった。

自分という個性を出すことがそんなにいけないことなのだろうかと思い悩んだこともあった。私はどうしてこの家に生まれてきたのだろうって。

そんな私の唯一の味方はおばあちゃんだった。きっとおばあちゃんがいなかったら私は真っ直ぐ生きられなかったと思う。

両親とのわだかまりはいまだに解消されないまま。大学に進学せず、逃げるように島を出てしまったから。

時々電話がかかってくるが、出ないようにしている。出たところで、いつものように、そんなんだからダメなんだ、あんたはいつも要領が悪いからと言われるに決まっている。

きっと就職先にも文句をつけるだろう。公務員になるこが人生の勝ち組なのだと、ずっと言い続けていたのだから。

もう引き戻されたくない。彼らの固定観念に縛られたくない。私は私らしくここで生きていきたい。

性別や見た目、体裁に囚われない九条さんに出会って、それでいいんだって思えるようになったから。

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