溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
「あのもう一つ聞いてもいいですか?」
九条さんが、ん?と首を傾げる。
「あの日、バーから連れて帰ってくれた日は、なにもなかったんですよね?」
同じベッドで朝まで過ごしたあの日の真意は結局聞けないままだった。でも今ならなんとなわかる気がする。なにが本当なのか。
「当たり前だ。酔いつぶれた部下を襲うほどガキじゃない」
「そうですよね」
九条さんがそんなことをするはずがない。
「でもどうしてすぐにそう言ってくれなかったんですか?」
「そんなの、意識させたかったからに決まってるだろ」
澄ました顔でそう言う九条さん。その発言にえっー!?と、素っ頓狂な声が出た。
「お前いつも俺に怯えてたし、男として見られてないのはわかってたからな。あやふやなままがちょうどいいと思って」
「なっ!」
ここにも策士が!!でも確かに九条さんの言う通り、あれから意識していたかもしれない。まんまとまた罠にかかってしまった。どれだけ単純なんだ、私。