溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
「そう怒るなよ」
「怒りますよ! その時はすごく悩んでいたんですから!」
「っとに、お前はいつも自信なさげなくせに反論だけは一丁前だよ」
そう言って目を細め優しく微笑みながら一歩近づいてくると、ふくれっ面の私の髪に指を差し込む。そして私の唇をじっと見つめると、小さなリップ音を奏でながら触れるだけのキスをした。
ただそれだけなのに一気に熱くなる体。鼓動は壊れたように早鐘を打っている。
「九条さん、一つお伝えしておかないといけないことが」
「なに?」
「実はその……私経験がなくて」
目線を下げながら、恐る恐るカミングアウトする。九条さんは「あぁ、なんとなくそんな気がしてた」と、特に驚く様子もなく言った。
「だからその……粗相をしていまうかもしれません。今から謝っておきます。すみません」
声を上ずらせそう言うと、九条さんがプッと吹き出すように笑った。
「なんだよ、粗相って」
「だって、マナーもなにも知りませんし……」
手順なんてもってのほか。ドン引きされたらと思うと怖くなってしまう。
「マナーって。俺も知らん」
えっ? そうなの? そんなもの? あぁ、こんなことならエロゲーしておくんだった。
「別に今すぐどうこうしようなんて思ってない。無理するな、お前のペースに合わせる。そもそも青い顔したお前を抱くなんて鬼畜な真似できないしな」
そう言って私を引き寄せるとギュッと抱きしめてくれた。九条さんの香り、ぬくもりにキュンとする。もっと触れたいと思ってしまう。