溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜


そう疑念を感じていると、汗を拭いながら西沢が矢継ぎ早に言う。

「えっと、あの、深く突っ込まないでください」

は?! そんな答えで納得するとでも?

「いいから訳を言え」

そう強く言えば、観念したように肩をすくませ頷く。

まさか西沢に限ってそんなはずはないと信じている反面、もしそうだったらと不安になる自分がいる。

西沢に出会って最初は一喜一憂する自分に驚いていたが、今じゃ毎日それの連続で驚く暇もない。一緒に暮らすようになってからは特に。

「で? なにしてた」
「あの、笑わないで聞いてくれます?」

ことによっては笑い事では済まないと思いながら頷く。そんな俺の心情を知ってか知らずか、西沢は言いにくそうに実はと切り出した。

「京吾さんの車と間違えて、知らない人の車に乗り込んでしまって。で、その運転手さんに驚かれて、慌てて走って逃げてきたっていうわけです」
「はぁ?」

なんだそりゃ。口からは安堵したからか、はたまたドジを発揮した妻に呆れたからなのか、どちらの要因で出たものかわからないため息が盛大に溢れる。

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