ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ2 【完】
「よかったら、少し話さない?」
磨理子さんの母親は、手のひらで椅子を指して言った。
「ごめんなさい。今日はちょっと時間がなくて……また今度ゆっくり!」
彼女には申し訳ないが、他愛もない会話に時間を割いている余裕はない。
一刻も早く、沙奈を見つけださなければ。
「せっかくなのに、残念だわ」
「本当にごめんなさい! これ、また返しにきますから」
顔を合わせるとつらいのか、彼女は背中を向けて、開けたままの引き出しから手鏡を取り出す。
「ええ、待ってる。でも、今度は早めに言ってね。ちゃんと、おめかしするんだから」
髪を掻き分けながら、鏡越しの笑顔。
……鏡。
ふと、俺を襲うデジャヴ。
……なんだろう? なんだか、引っかかるような……。
「わかりました。また、近いうちに」
純粋な気持ちからの面会ではなく、彼女を利用したようで心が痛い。
うしろ髪を引かれる思いを抱きながら、病院を出た直後。
……ん!?
なんとなく視線を感じた。
足を止めて、あたりを見渡す。
「…………」
正面は木の群れ、のみ。
……気のせいか。
幸運にも、バスはすぐにやって来た。
乗客はシルバーシートに1名のみ。
最後尾の椅子に座り、窓を少しだけ開ける。
すぐに髪を揺らす心地よい風も、魂を癒すのどかな風景も、今はまったく興味がない。
バッグの中からノートを取り出し、久しぶりに磨理子さんの日記をじっくりと読んでいく。
過去に取り残された磨理子さんの一生が、またしても俺を虜にさせた。
はじめは女性らしいオチのない日常から、ときめく恋をして、人並みの幸せを得た妻となる。
彼女の最期……手足を斬られ、見世物にされた凄惨な死を知っている俺でも、思わずはにかんでしまうほどの素敵な人生の一片。
しかし、なだらかに、でも着実に。その幸せは姿を変えてゆく。
暴力、妊娠、流産、監禁。
最後のページが迫る頃。
綴られた悲痛な叫びが、文字が、俺の涙でにじんでいた。
……これをめくれば……。
「ッ?!」
2011年1月18日。
この日の記録を見たとたん、最後のページがめくれなくなった。