ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ2 【完】



「ドウゾ」

俺に紙を押しつける。

すでにもらった……。いや、それ以前に、俺にまったく気付いていない。

「沙奈?」
「ドウゾ」
「なあ!」
「ドウゾ」
「俺だよ! 敬……」
「ドウゾ」

……ダメだ。

沙奈の背中越しに、ふたりの警官と中年女性が見えた。

女性は紙を見せながら、俺たちを指さす。

「帰ろう!」

これから起こることを予期し、俺は沙奈の手を強引に引っぱった。

「ッ!?」

だが、動かない。微動だにしない。

沙奈は踏ん張るでもなく、鬼気迫る顔で、

「ハナセ」

そう言った。

彼女が遠くにいるように感じ、不意に心が折れ、掴んだ手を離してしまう。

「キミ、この子の知り合い?」

「ぁ、ぇっと……」

俺たちの間にできた溝に、すかさず警察官が割りこんできた。

「ここで許可なくチラシを配っちゃダメなんだけど、知ってる?」

「ドウゾ」

「……うん、はい、ありがとう。じゃなくて!」
「ドウゾ」

初々しさを感じる若い警察官は、2枚目を受け取る前に、沙奈の様子が普通ではないと気付く。

「ちょっと交番の方に、ね?」

「ハナセ」

肘を掴むが、さっきの俺と同じ。

ただ、『放せ』と言われれば俄然、燃える職業なのだろう。

「来なさい!」

今度はふたり掛かりで沙奈の脇を固めた。

「ギヤャ――――ッ゛!!」

耳をつんざくよう叫び。

手に持っていた数十枚の紙が一斉に空を舞う。

沙奈は身体をよじらせ、奇声を交え、激しく暴れた。

「さ……な……」

彼女は、清楚で控えめな性格のはず。

だが今は、都会のまん中で警察官相手に暴れている。

はじめて見る壮絶な姿に、呆然と立ちつくす。

空を舞った紙が、まるで数十羽の白い鳥のように、はらはらと地上に舞い降りた。

幸福とはほど遠いこの地に……。


 
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