さまよう爪
忘れられない男
『あの日』から頻繁に見る夢がある。

それは、わたしの身体と心に、火傷の痕のように灼きついている出来事、思い出。

まだ子供だった頃、その日家にはわたし1人だけたった。

当時10歳だったわたしは、母親の部屋にこっそり入り、鏡台の下の棚を開けては、キラキラしたパッケージのファンデやアイシャドウ、パウダー、ルージュ、グロス、リップバームやらを引っ張り出して心踊らせ。

あぶらとり紙で鼻の脂をとり、眺めては遊んでいた。

母親は昼間は男の人と遊びに行き、夜にスナックで働いて生活費を稼いでいたので、まさに鏡台の下の化粧品は1人の女として余すことなく満足を得る必需品であり、お財布と繋がる大事な商売道具でもあって、大事な宝物のようにしまわれていた。
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