さまよう爪
飲み物が底をついた。

「あの、ちょっとお手洗いに」

「うん。行っておいで。待ってるから」

けっこう並んでいる最後尾についた。

持ってきた手鏡で顔をのぞきこんで、軽く髪を整える。

赤い口紅はにじんでしまい、輪郭がぼんやり。

飲み物を飲んだから、口紅が落ちてしまっている。ぬり直さなくては。

化粧直しもほどぼどに、冷房が効いていて首元から全身を冷やしていくのでバッグの持ち手に結びつけていたスカーフをほどく。

エナメルブルーのサラッとした少し光沢ある生地でやや厚手のスカーフ。シルク100%で肌触りはいい。横浜スカーフらしいエルメス(馬車具)柄だ。

首に巻いたり、肩に掛けるだけでなく、バッグチャームやベルト。帽子に巻いたり、ヘアバンドやストール代わりなど、様々なアレンジが楽しめる。

服装の色がベージュなので差し色の青が顔まわりをぱっと華やかにした。

改めて変なところはないかチェックして外へ出る。

そして、ぴたりと足を止めた。

お手洗いを出たすぐ目の前で広がっていた光景は、わたしの胸に強く焼きつく。

瀬古さんが二人組の女の人がいるのがわかる。

ボディラインの出るミニワンピース。クラブの薄暗い照明の中でも目立つネオンカラーのトップスにショーパン。金髪ボブ。

ミニワンピの彼女の髪はゆるやかなウェーブがかかった、首筋までのミディアムロング。額にかかった黒髪をかきわけるようにする。まるで挑発しているのではないか。

場所も場所だからそういう肉食系女子が多いだろうし、もしかしたらこういうことは、頻繁にあるものかもしれない。
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