さまよう爪
しばらく、それをぼんやり見つめていた。

目が離せない。

どんな会話がなされているのだろう。

瀬古さんはミニワンピの彼女の何かを指差し笑っている。

まるで小犬のように腕に絡みついてくる金髪ボブの子をひっぺがすと、瀬古さんはペチンと彼女のおでこを小突いた。彼女が「痛いよぉー」と言っているのが動きと表情からわかる。

でも、見てはいけないような気がする。けれどもやっぱり、見たい。

瀬古さんは彼女たちの手を掴み、甲にキスをする。

ミニワンピの彼女が口裂け女のような真っ赤な唇で何かを呟き、両腕を瀬古さんの首にまわし、獣を狙うかのような目で彼を見つめ、彼の少し開いてた脚の間にスラリとしながら太ももがセクシーな脚が入っている。

グイと膝を上げたところで、ハッとして、あわてて瀬古さんに駆け寄り、声を張る。

「瀬古さん!」

彼の体がぴくりと反応する。

ミニワンピの彼女はびっくりしたように瀬古さんの首から腕を外す。

「遅かったね。混んでた?」

「はい。少し混んでました」

二人組の女の人に向き直る。

彼女たちはつけ睫毛を何枚も重ね、睫毛の密度を濃くしバサバサしたカラコンの瞳をキョトンと丸くさせていた。
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