さまよう爪
「あんなこと」
何となく、小声になってしまう。
「なに?」
「……」
口ごもっていると、わたしの言わんとしていることを理解したのか、瀬古さんは、あーはいはい、そういうことね。といったように。
「あの、ね? 小野田さん」
瀬古さんの声もいつのまにかトーンダウン。ばつが悪そうな顔。
こちらだってどう接すればいいのか正直わからないのだ。つとめて普通にするようにしているだけ。
「きみがいるんだからついてったりしないし、ああいうのはその場の空気とかあるじゃない」
あるじゃない?
「キスもですか」
「そう。しかしあんなぐいぐいくるとはちょっとね。股に膝当ててくんだよ。びっくり」
「……言わなくていいですよ」
「なにむくれてんの? 俺にだって好き嫌いあるよ。女の子だったら誰でもいいわけじゃないし。あ、でも男に勃つなって言うことは、息するなと同じくらいのものだと思っていただければ」
何を言ってるんだこの男は。
しかも淡々と。
「……聞いてませんそんなこと」
瀬古さんは自分のうなじを撫でる。
「じゃあどうしたら機嫌なおしてくれる? 俺は何をすればいい? さっきの彼女たち呼んできて何もなかったって言ってもらおうか? 俺のせいでそうなったんなら謝るよ。ごめんね」
こんなのただのわたしのワガママだ。
ダメだ。
こんなのは。
「……ごめんなさい」
さっきより深く頭を下げる。
「わたしは、瀬古さんの思うような女じゃないですよ」
深入りして傷つくのも嫌だし。何も聞かず逃げようとするわたしは、すごく卑怯だ。
何となく、小声になってしまう。
「なに?」
「……」
口ごもっていると、わたしの言わんとしていることを理解したのか、瀬古さんは、あーはいはい、そういうことね。といったように。
「あの、ね? 小野田さん」
瀬古さんの声もいつのまにかトーンダウン。ばつが悪そうな顔。
こちらだってどう接すればいいのか正直わからないのだ。つとめて普通にするようにしているだけ。
「きみがいるんだからついてったりしないし、ああいうのはその場の空気とかあるじゃない」
あるじゃない?
「キスもですか」
「そう。しかしあんなぐいぐいくるとはちょっとね。股に膝当ててくんだよ。びっくり」
「……言わなくていいですよ」
「なにむくれてんの? 俺にだって好き嫌いあるよ。女の子だったら誰でもいいわけじゃないし。あ、でも男に勃つなって言うことは、息するなと同じくらいのものだと思っていただければ」
何を言ってるんだこの男は。
しかも淡々と。
「……聞いてませんそんなこと」
瀬古さんは自分のうなじを撫でる。
「じゃあどうしたら機嫌なおしてくれる? 俺は何をすればいい? さっきの彼女たち呼んできて何もなかったって言ってもらおうか? 俺のせいでそうなったんなら謝るよ。ごめんね」
こんなのただのわたしのワガママだ。
ダメだ。
こんなのは。
「……ごめんなさい」
さっきより深く頭を下げる。
「わたしは、瀬古さんの思うような女じゃないですよ」
深入りして傷つくのも嫌だし。何も聞かず逃げようとするわたしは、すごく卑怯だ。