さまよう爪
驚いてうつむかせていた顔を勢いよくあげれば
、「ここ人通り激しいから危ないし外出たほうがいい」

と真っ当なことを言われ、わたしは手を引かれるがまま黙って瀬古さんのあとに続く。

なんのためらいもなく手をつなぐ瀬古さん。

それは恋人つなぎと呼ばれるもので。

彼は、こういうのも、慣れているのだろうか。

恋人じゃなくても、こういう風にできちゃうくらいには。

外に出ると冷たく澄んだ、緑の中にいるような空気の匂い。

鼻の奥をスッと抜けてゆく、少し切なく寂しくなるような匂い。

さっきとは違うざわめき。

帰路につく人。

週末なので寄り道する人。

様々。

手はすでにほどかれていた。

ハイヒールを履いてるからもあるが自分と瀬古さんにはあまり身長に差がない。

同じ高さの目線を持つ瀬古さんと、並んで歩く。
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