強引専務の身代わりフィアンセ
 そこで、時間が迫っていることに気づく。両親に挨拶して、仕事をきちんとこなしてくる旨を告げた。

「高瀬さんによろしくね。また、エキスポの内容やホテルがどんなのだったのか教えてねー」

「なにかあったら、いつでも連絡してくるんだぞ」

 対照的な両親の反応に私は苦笑いしかできない。専務から連絡はまだないけれど、駐車場に向かうことにする。

 朝とはいえ太陽はすっかり昇り、気温はすでに二十五度は超えていそうだ。化粧崩れを心配しながら、キャリーケースと仕事用の鞄を持ち、建物の影になっているところで専務を待つことにした。

 本当なら運転手付きの社用車で向かうところだが、今回は事情が事情なので専務の車で向かうらしい。

 私にとっては、最終確認もできるし気を遣わなくてすむので有り難いけど。ややあって、この前と同じ車が姿を現したので私は軽く手を上げた。

「お疲れ様です、今日からどうぞよろしくお願いします」

 今回は遠慮なく助手席のドアを開けて、練習した笑顔を専務に向ける。とりあえず荷物を後ろに乗せてもいいか尋ねて、無事に積んだところで私は助手席のドアを再び開けて、乗り込んだ。

 改めて隣に座っている専務と視線を合わせる。今日の専務は当たり前だが、仕事仕様にばっちりとスーツを決めていて、その姿に一瞬だけ目を奪われる。

 けれど、目を奪われたのは専務も同じようだ。じっと私を見つめて、おもむろに口を開いた。

「その髪」

 待ってました、と言わんばかりに私は笑ってみせた。
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