強引専務の身代わりフィアンセ
「そういうわけにいかないだろ」

「こっちの台詞ですよ! 大丈夫です。あそこのソファ、私の家のベッドと、そう大きさも変わらないですし」

 必死に訴えかけて、専務に納得してもらおうとする。こんなことで譲り合いになるなんて思ってもみなかった。でもここは絶対に引くわけにはいかない。専務をソファで寝かせるなんてできない。 

「だったら一緒に寝るか?」

 どういうふうに説得しようかと思考を巡らせていたところで、あまりにも寝耳に水な発言に、私は目を剥いた。

「なに、言ってるんですか」

 抑揚なく尋ね返す。なにかの聞き間違いだろうか。提案してきた内容とは裏腹に、専務の顔はどこか冷たかった。

「べつに、たいしたことじゃないんだろ。こうして婚約者役として一緒に泊まってくれてるわけだし」

「どういう、意味ですか?」

 どこか皮肉めいた彼の言い方に、私は眉をしかめる。専務はさらに距離を縮めてきたが、私は彼から目を離すことはしなかった。

 そしてパーソナルスペースをとっくに超えた近さになったところで、彼の長い指が私の頤を滑った。私の顔は強制的にくいっと上を向かされる。

 専務の深い色を宿した瞳がまっすぐに私を捕える。

「今までだってこういったことはあったんだろ? そのときはどうしたんだ? 仕事だからって、わざわざ髪形や服の好みまで変えてくれたら、勘違いした奴だっていたんじゃないのか」

 なんとなく専務の言わんとしていることが理解できて、私は顔を歪めた。この胸を覆っていく感情がなんのかわからない。でも、確実に痛みを伴ってくる。
< 78 / 175 >

この作品をシェア

pagetop