強引専務の身代わりフィアンセ
「わ、私」

 なにか言い訳しなくては、と口を開いたところで突然、強く抱きしめられた。

「美和のことを傷つけて本当に悪かった」

 打って変わっての真剣な声色に私は言葉を飲み込む。なので、口を開いたのは一拍間を空けてからだった。

「謝らないでください。一樹さんはなにも悪くないんです。私が」

「それでも、美和は傷ついて辛かったんだろ。自分の気持ちにまで嘘をつかなくていい」

 彼の腕の中で私は目を見開く。じわじわと心の底で蓋をしていた感情が溢れ出そうになるのを必死に堪えた。

 必要としてもらおうだなんて、特別になりたいだなんて、そんな期待は抱いちゃいけない。自分の価値を客観視することで納得するしかない、させるしかない。

 そうやって言い聞かせてきたのに。今になって彼の言葉が頑なだった心に沁みていく。あのときでさえ泣いたりしなかったのに。

 目の奥が熱くなり、息が詰まりそうになるのを気づかれたくなくて自分から専務の方に身を寄せた。彼はなにも言わないまま、落ち着かせるように私の背中をさすってくれる。

 なんで? 傷つけたって言う罪悪感から? だから優しくしてくれるの?

 心の中でいくつも浮かぶ疑問を、本人に聞くことなんてできなかった。すぐそばにいるのに、口を開いたら涙が零れそうな気がして。駄目だ、こうしてここにいるのは、仕事でなのに。
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