リボンと王子様
「……わかった、聞くよ」


只ならない様子を察したのか、千歳さんは私の手を解放した。

気安く触れたことがいけなかったのかとヒヤリと背中が冷たくなる。



けれどそれは一瞬の杞憂で。



千歳さんは放した私の手をギュッと繋ぎ、リビングのソファに座らせた。

その温かさに無性に泣きたくなった。



その後、私に連絡用のスマートフォンを出すよう指示した。

無言で何やら操作をして、連絡用のスマートフォンを返した。



「俺の私用の番号。
連絡用のがつながらなかったらこっちに連絡して。
……葛さんも私用の、念のために教えといて」

この状況では嫌とは言えず、私は差し出された千歳さんのスマートフォンに、今は電源を切っている会社用の携帯番号を入力した。



千歳さんは鞄を無造作に置き、私の隣りに腰かけた。

彼の重さでソファが少し沈み込む。

彼の真正面を見つめるように私は身体を傾ける。



「……で?」



窓の外に広がる闇を集めたかのような瞳が私を見据える。

膝の上に置いた拳をギュッと握りしめる。

寒いわけでもないのに、指先がかじかむかのように冷たくなり、震えそうになる。



「も、申し訳有りませんっ。
わ、私、響様に触れないよう言われておりました引き出しを落としてしまいまして、中身を見てしまいました……!」


一気に言ってガバッと頭を下げた。


「……は?」

「べ、ベッドシーツを交換しておりました際に雨に気付きまして、急いでいて転んでしまって、その時……咄嗟に引き出しを掴んでしまって……!」

「……転んだ?」

「あっ、フローリングに傷はついておりません。
引き出しも中身にも破損はないのでご安心ください!」

「いや、それはどうでもいいけど……葛さんは?」

「わ、私ですか?
ひ、膝をぶつけたくらい、ですが」

「ぶつけた?
大丈夫なのか?」

「は、はい。
私は大丈夫です。
それよりも……」



もう半泣き状態で必死な私の様子に容赦ない言葉が飛んできた。



「……バカ?」



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