元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

退屈な式典が滞りなく終わると、そのまま隣の広間で戦勝祝いのパーティーに移行する。皇帝陛下はその場にはいなくなった。

皇帝ともあろう人物が下々の者と一緒に食事を摂ることは、帝国が始まって以来一度もない。今回も例外ではないということか。

「私はいったい何のために来たんでしょう。もう帰っても良いでしょうか」

会場の隅で、父上にこっそり話しかける。

「皇帝陛下はお姿こそここにないが、どこかから私たちを見守ってくださっている。もう少しいてくれないか」

何だそれ。こっそりこの会場を覗き見るからくりがあるのか、誰かが皇帝の代わりに花嫁候補を観察しているのかわからないけど、どっちにしても気持ち悪い。

もちろんそんなことを公の場で口にするわけにはいかず、落胆して父上から離れた。

料理や飲み物が置かれたいくつかの丸テーブルを囲み、貴族や軍人が談笑している。私は軍の上官に見つからないように、こそこそと父上がいる方とは反対側の隅っこに移動した。

きついコルセットをつけたままでは胃まで圧迫されて食欲もわかない。手持無沙汰だったので白ワインのグラスだけを持って壁にもたれかかっていると、すぐ近くにいた貴族らしき男女が目に入った。


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