元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
もごもごと返事をすると、レオンハルト様は珍しく表情を曇らせた。
「二国間の戦争が終われば、戦いがなくなると思うか?」
「えっ?」
「エカベトを帝国領にしても、結局内乱が起きるだろう」
強い風が彼の黒髪を揺らす。不吉な予言めいた言葉も一緒に揺れた。
「領土が広がりすぎるのも考え物ってことだ。皇帝陛下にそれを統治し、導く能力があるか、俺には疑問だね」
帝国軍人としては反論すべきなんだろうけど、私はその言葉を持たなかった。
胸の中に暗雲が広がる。この戦いに勝っても、軍はなくならない。
内乱が起きる可能性も、他勢力から攻撃を受ける可能性もある。
私たちは、いつまで争いを繰り広げるのか。時代はどれだけの犠牲者の血を望んでいるのか。
「悪い。そんな不安そうな顔をするな。この戦いには勝つ。それはアルバトゥスを出る前から決まっている」
「なぜ?」
聞き返すと、苦笑寸前のような顔をしていたレオンハルト様の表情が崩れた。目を細め、私を見つめる。
「勝たないと愛しの花嫁が手に入らないからに決まってるだろ」
「あ……」
そういえば。それについてさっきまで考えていたのに。ほんとどんくさいな、私って。
「ついでに、俺が指揮することで、なるべく犠牲が少なく、そして早く終戦させることができればいい」