元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
ついでだなんて。それがレオンハルト様の一番強い思いだろうに。
ただ海が好きだったこの人が軍人になるしかなかったのは、戦争のせいだ。
こんなに人どうしの争いを憎み、階級にも勲章にも興味がないレオンハルト様が戦争で数々の輝かしい功績をあげ、元帥にまで昇りつめてしまったのは皮肉としか言いようがない。
「お、見えてきた」
レオンハルト様が望遠鏡をのぞいて言う。私の肉眼では、まだエカベトは水平線に浮かぶゴマ粒くらい。
「センナを出て二日か。予定通りだな。相手の射程距離ギリギリで停まること。全艦に伝えてくれ」
「衝突まであと二時間というところでしょうか」
「ああ」
短く言うと、レオンハルト様は望遠鏡を構えなおす。きりりとした横顔がじっとエカベトを見つめていた。
その軍服の胸の中には、どんな思いが渦を巻いているのだろう……。
「レオンハルト様」
ぎゅっと軍服の裾をつかむ。
「敵国の人や後世の人間がどれだけあなたを責めても、私は……私は、あなたの味方ですから」
何万人という敵軍の血を海の底に飲み干させてきた彼のことを、大量殺人者と罵る人もいるだろう。
誰より彼自身が、自分のことをそう思っている。だから彼は武勲を誇ったりしないし、救える命はとことん救おうとする。