元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

不敗の軍神じゃない。漁船の船長になり損ねた不運なレオンハルト様。そんなあなたが、私は好きです。

「……そうか。そりゃ心強いな」

望遠鏡を下ろしたレオンハルト様は、一瞬だけ目を丸くしていたように見えた。けれど、すぐにそれを細めて微笑みを作ると、大きな手で私の頭を帽子の上からぽんぽんとたたいた。



──二時間後。

エカベトを目前にし、双眼鏡で他の提督艦隊の動きを確認する。

「作戦通り、どの艦隊も敵の射程距離ギリギリで停船します」

敵の軍港の正面にはヴェルナー艦隊とメイヤー艦隊。他の提督はそれぞれ左右に分かれ、大陸に沿うようにエカベトを半包囲する。

向こうからもこちらの姿が見えているはずだけど、軍港に停泊している船も、その向こうに鎮座している城塞も静寂を保っていた。

「信号を」

指示された兵士は、大きな旅行カバンのような持ち歩きできるモールス信号の機械の蓋を開け、左手でイヤホンを耳に押し当て、右手で素早く信号を打つ。

それは、敵軍に向かって打つ信号。

『あなたたちは包囲されている。即座に降伏すべし。返答までに一時間の猶予を与える。申し出を拒否した場合、また時刻までに返答されない場合は一斉攻撃をしかける』

レオンハルト様が事前に指示しておいた内容を正確に、繰り返し打つ専門の兵士。

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