元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

「この先の指揮は、ベルツ参謀に一任する。作戦通り、射程距離ギリギリを保て。少し近づき、敵が攻撃してきたら速やかに退く。それを繰り返すんだ」

そうやって敵に過分な攻撃を加えず、ひたすら消耗を強いる。戦力が底を尽きかけているエカベトに対してだけ有効な作戦だ。

「三時間経っても俺が戻らなかったら、その時はお前たちの好きなようにしろ。じゃあな」

レオンハルト様が本来は脱出用の簡素なボートに乗り込む。その姿を、甲板にいる兵士全員が不安そうに見守っていた。

最高責任者が自ら武器も持たずに敵地に行くなんて聞いたことがない。彼の無事を祈りながらも、それを信じている者は少ないのではないかと思えた。

死ぬ可能性の高い作戦に自らの身を投じることに何の抵抗もないレオンハルト様は、兵士にボートを下ろすように命令した。

ボートの両端を支えるロープを若い兵士たちが何人かで持ち、ゆっくりとボートを下ろす。私たち幹部はその様子を船べりにくっついて見ていた。そのとき。

低い砲弾発射音がして、船首の目と鼻の先に巨大な水柱が立った。船が大きく揺れると、自然とレオンハルト様の乗っているボートも揺れた。

「攻撃してきやがった! おい戻れレオンハルト。あいつらに降伏する気はない!」

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