元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
船べりから乗り出してライナーさんが叫ぶ。けれどレオンハルト様はこちらを見上げて首を横に振った。
「早く下ろせ! 後は作戦通りに!」
ボートの中には折り畳み式の簡易マスト。帆を張ることができ、風をうまく捕まえればオールで漕がずとも進むことができる。
けれど、砲弾を防御するものは一切ない。冷汗がこめかみを流れ落ちる。その二秒ほどの間に、もうひとつ敵の砲弾が海に落ちた。
「レオンハルト様……」
彼の長身が遠ざかり、小さくなっていく。そのたびに鼓動が不吉なリズムを刻み、最後まで黙って見送ることは、できそうになかった。
船べりをつかみ、足をかける。すると兵士たちからどよめきが起こった。
「ルカ、何してるの」
アドルフさんが駆け寄ってくる。
「ごめんなさい。私、一緒に行きます。レオンハルト様と一緒に」
「ちょっ……」
誰の返事も待たず、私は船べりを蹴ってレオンハルト様のボートへ向かって飛び降りた。
「ルカ!?」
こちらを見上げていたアンバーの瞳と目が合った。と思った次の瞬間、私はレオンハルト様の腕の中に落下していた。
ちょうどお姫様抱っこのような形でレオンハルト様ががしりと私の身体を支える。けれどボートが左右に揺れたため、バランスを崩したレオンハルト様は私を抱いたまま尻餅をついた。