元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

「いてて……お前、何やってるんだ!」

私はレオンハルト様のおかげで奇跡的に無傷だった。レオンハルト様の上からどくと、こちらをのぞきこんでいる幹部や兵士たちに手を振る。

「アルバトゥス海軍の元帥閣下がお供の一人も連れていないんじゃ、格好つかないでしょう」

「は? まさか一緒に行く気じゃないだろうな?」

その質問に、私は微笑みで返した。

「私は何の特技もありませんから。この船にいなくても戦闘中は誰も困りません。なので、レオンハルト様の補佐をします」

話している間に、ボートが海面についた。ロープをほどき、折りたたまれたマストを設置し、帆を開く。早く陸に着かなければ。こうしている間にも、敵の攻撃は激しくなってくる。

「あなたをひとりにはしない」

どうせ船で待っていても生きた心地はしないんだ。それならどんなに危険でも、一緒にいた方がいい。

「アホ」

帆を開くためのハンドルが固くてなかなか早く動かせない私の手をつかんだレオンハルト様。

「仕方ないな。俺から離れるなよ」

そう言うと、レオンハルト様は一緒にハンドルを回してくれた。

開かれた帆の角度を変えながら、風を捕まえる。波に乗った私たちは、砲弾を飲み込み続ける海の上を渡り、一気にエカベトを目指した。
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