元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

敵の軍港にはまだ微々たるものだけど、艦隊が残っていた。旗艦と、その左右に並んだ二〇隻ほどの船がヴェルナー艦隊に砲撃を加えている。

船は船どうししか見えていないのか、砲弾は私たちのボートを見向きもしなかった。幸運なことに、私たちは敵艦隊の端っこからエカベトに上陸することに成功した。

先に上陸したレオンハルト様に手を貸してもらい、敵の軍港の端っこに足をかけた。そのとき。

ドン、と背後で爆音がした。振り返ると、今まで乗っていたボートがオレンジ色の炎に包まれ、黒煙を吹き出していた。

「まあ、気づかれてはいるよな」

一番近くに停まっている敵艦隊の甲板から人が見える。当たり前だけどエカベトのカーキ色の軍服を着ていた。

彼らはアルバトゥスの紺色の軍服を着ている私たちの姿を見ると、船べりから一斉に発砲してくる。

「おっと、危ない危ない」

レオンハルト様は敵艦から離れるのではなく、むしろ懐に入るようにピタリと寄り添った。ふくらみがある船体が邪魔で、銃弾はこちらに届かずにどこかに落ちていった。

「さて、城塞の入口は……結構遠いな」

軍港の奥にエカベトの城塞はある。ふつう権力者のいる城は、他国から攻められにくいように高い土地にあるもの。しかしこの国は、軍港から見える距離に城塞があった。

そびえ立つ城壁の奥に鎮座する黒い石を積み上げられて作られた城塞は、それ自体が強力な軍事拠点となっていた。

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