元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

攻めてきた敵を市民がいる町まで通さず、城塞にある何百基という大砲で一網打尽にするという話を聞いたことがある。

大昔から今まで、何万という人の血を流させたこの地で、私たちが生き残る道はあるのか。

「さあレオンハルト様、今回はどんな魔術を使うんです?」

「ん?」

「ん? じゃなくて。ほら、どうせ秘密で作戦を考えてきたんでしょ。そろそろ教えてくださいよ」

肘でつつくと、レオンハルト様はきりりとした目を何度かまばたきさせた。その後形の良い唇から滑り落ちたのは……。

「ないけど」

「え?」

「作戦なんて、ない」

「え……ええー!!」

作戦が……ないですって!

「だって俺、陸兵じゃないし」

肩をすくめて見せるレオンハルト様。

「そんな言い訳が通じますかー! どうやって生きて帰るつもりなんですかー!」

両手でレオンハルト様の胸ぐらをつかんで揺さぶる。がくがくと揺さぶられたあと、彼はそっと私の手を放させた。

「怖ければここで待っていろ。すぐ迎えにくるから」

「え、ちょ……っ」

レオンハルト様は微笑み、私の頭をぽんぽんすると颯爽と軍服を翻して歩き出す。その瞬間、新しい大砲の音が聞こえた。それは背後から聞こえてくる。ヴェルナー艦隊が砲撃を始めたんだ。

敵の消耗を誘うため、不自然だと思われないため、多少は攻撃してもいいことになっている。そのおかげで敵艦隊の目はレオンハルト様から離れたようで、甲板からの銃撃がやんだ。

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