元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

「少佐、いえ今は中佐でしたか。お久しぶりです」

実際は久しぶりと言うほど離れてもいなかったのだけど、気分的には本当に”お久しぶり”だった。

ヴェルナー艦隊のみんなと航海していた日々が、ものすごく遠い昔のことに思える。

「今日はこれを、ある方からお預かりしまして」

盗聴の可能性を考えたのか、クリストフは言葉を曖昧にして、すっと懐から白い封筒を取り出す。

「手紙?」

ワイン色の封蝋にはアルファベットの『V』。それは傷ついておらず、手紙が未開封のものだとわかる。

このアルファベットが名前の頭文字だとしたら、思い当たる人物はただひとり。レオンハルト・ヴェルナー様だ。

クリストフの灰色の目がうなずく。私ははやる心を押さえ、下士官にペーパーナイフを持ってこさせ、手紙を開封した。

『ルカへ』

何の飾り気もない言葉でその手紙は始まる。

『すぐに迎えに行けなくてすまない。実は他の問題も浮上し、そちらの解決も急がなければならなくなった』

他の問題? ざわつく胸を押さえつつ、続きに目を走らせる。

『エカベト国王が、宮殿の地下牢に幽閉されているという話を聞いた。これは許されることではない。たとえ捕虜であろうとも、国王だった人間はもっと厚く遇されなければならない』

それは、エカベト国民の反感を買わないためにも必要なこと。私にだってわかるのに、皇帝陛下の周りにいる貴族たちは傲慢にもエカベト国王を牢に閉じ込め、ひどい生活をさせているようだ。

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