元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「そういえば」
私が拗ねていると思っているレオンハルト様を見上げる。
「私も異変を感じました。後方勤務部の長官とその周辺が尋常でない様子でばたばたしていて……」
何かがあったのではと思ったんだ。もしかしたら、今話していたことと関係があったのか?
レオンハルト様の表情が険しいものに変わった。けれどそれは、私の報告のせいだけではないみたい。
突然大きな音を立て、無遠慮に開けられた玄関。驚いてそちらを見ると、前に私と父を案内してくれた使用人の少年が青い顔で立っていた。
「門の周りを見張っていろと言ったはずだ」
レオンハルト様が厳しい声を投げかける。それにうなずきながら、少年は玄関の扉を閉め、内側からカギをかけた。
「申し訳ありません。急なご報告があります」
「どうした。クローゼ家の者がルカを探しにでも来たか?」
それはあり得る。なかなか帰ってこない私を心配し、父上が追手を差し向けたのだろうか。
レオンハルト様の横に立つと、使用人の彼は唾をごくりと飲み込んで呼吸を整えてからはっきりと言った。
「皇帝陛下が、崩御されました」
自分が息を飲む音と、レオンハルト様のそれが聞こえたのはほぼ同時だった。
皇帝陛下がお亡くなりに……。
誰もが言葉を失った玄関ホールに冷たい沈黙と緊張が漂う。