元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
戸惑う私とは対照に、レオンハルト様は落ち着いている。そんな私たちの前に現れたのは、よく知っている人物だった。
「残念です、ヴェルナー元帥閣下」
「メイヤー提督……!」
憲兵隊たちの間から現れたメイヤー提督は、ゆっくりと私たちの前に歩み出る。どうして彼がこんなところに憲兵隊を率いてくるの?
混乱する私をちらりと見たメイヤー提督はすぐ視線を外し、レオンハルト様をにらむように見つめる。
「レオンハルト・ヴェルナー元帥閣下。あなたを皇帝陛下殺害の疑いで逮捕する」
海の底より低くて冷たい声がホールに響いた。
背中を冷たい汗が何本も通っていく。体が震え、鼓動が激しくなる。
どうしてレオンハルト様が、逮捕なんて……。
「身に覚えがないな。逮捕するには証拠があるんだろうな?」
相変わらず狼狽える様子のないレオンハルト様が聞き返す。狼狽えてはいないけど、不快感が顔に張り付いていた。
「証拠などは必要ないのです。元帥閣下」
「いくらでもねつ造するということか」
「あまり皇室と貴族たちを敵に回さない方がいい。大人しく連行されてください」
専制君主制である帝国には、開かれた議会も平等な裁判もない。情報は規制され、市民が皇室や軍の真実を知ることはない。