元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「では、共に同じ牢に入る。それでいいか」
半ば投げやりに言うと、メイヤー提督はしぶしぶといった表情でうなずいた。
彼に命令できる立場ではないはずのレオンハルト様は私の手を握り、先を歩くメイヤー提督についていく。
「あ、そうだ。留守番と……ドアの修理を頼む」
玄関を出る直前で振り返ったレオンハルト様は、使用人の少年にそう微笑みかけた。
呆然と突っ立っていた少年は、我に返ったように敬礼した。その瞳に涙が溜まっているのが見えた。
皇帝陛下が崩御されただけでも大事件なのに、まさか殺害の疑いが自分たちにかけられるなんて。
私たち二人だけならば、大暴れして脱走するのも悪くない。けれど、それではあの少年を巻き込んでしまいかねない。
レオンハルト様も私と少年のために、戦うことをせずに追従することに決めたのだろう。
邸宅の敷地を出ると、騒ぎを聞きつけた市民たちが集まってこちらを見ていた。
「ヴェルナー元帥! ヴェルナー元帥!」
憲兵隊たちに囲まれる信じられない彼の姿を見て泣きだす者もいた。彼は本当に市民に好かれているみたい。
「すぐ帰ってくるよ」
レオンハルト様は片手をあげ、まるで小旅行にも行くような雰囲気で優雅に用意された馬車に乗り込んだ。私ももちろん、その後に続いた。
大丈夫、二人一緒ならなんとかなる。
祈るように信じながら、私たちは主のいなくなった宮殿へと向かった。