元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

「俺は大勢の人に崇拝されるような人間じゃない。ましてや神でもない。帝国のためという大義名分のもとに、大量殺人を犯した罪人だ。皇帝陛下殺害を考えたことはないけど、罰されるに相応しい罪を重ねてきた」

アンバーの瞳は、私の顔ではなくどこかを見ていた。

その瞳を見ると、海の中に飲まれていく船や兵士を黙って見送っていたレオンハルト様の横顔を思い出す。

彼はきっと、今までずっとひとりで、罪悪感と戦ってきたんだ。なのに、用兵の才能があったせいで、なかなか前線から遠ざかることができなかった。

辛かったであろう彼の心を思うと、こちらまで胸が痛くなってくる。

「けど、こんな逃げ方はいけません」

無実の罪で裁かれて死刑になることは、償いにも何にもならない。

「死んだ人は帰ってきません。ならば生きている人間のために何ができるか。それを考えましょう。私も一緒に考えますから」

「生きている人間のため……」

「レオンハルト様がいなくなったら、ひとりきりのお母様はどうなるんですか。あなたを慕っているヴェルナー艦隊の仲間たちは? 市民たちは? このままじゃ、何人も悲しませることになります」

膝を折り、レオンハルト様のアンバーの瞳をのぞきこむ。それは琥珀のように長い歳月と複雑な思いを閉じ込めた宝石のようだった。

< 185 / 210 >

この作品をシェア

pagetop