元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「誰か……誰かいるのか?」
通路の奥から細い声が聞こえてきた。
「まさか、国王陛下!?」
「きみは? 他に誰かいるのか?」
私たちより先に閉じ込められたと噂のエカベト国王。彼が少し離れた牢に閉じ込められている。
私とレオンハルト様は顔を見合わせ、確信するようにうなずいた。
「静かにしろ! 囚人どうしの会話は禁じられている!」
私と同じ色の軍服を着た見張りの兵士が声を張りあげる。
「囚人だと?」
素直に応じるわけもないレオンハルト様が立ち上がる。
「俺はともかく、他国の国王陛下を囚人呼ばわりとは何事か。我が帝国はいつの間にそこまで落ちたのか」
「なに……だ、黙れ!」
見張りがピストルをレオンハルト様に向けた。その瞬間、天井から轟音が響いた。
「なんだ?」
地下空間全体が軋んで崩れようとしているよう。兵士は動揺した顔で入口に立った。外で起きていることを確認するためか、自分だけ崩れ落ちそうな地下空間から逃げるためか。
「待てっ!」
レオンハルト様が鉄格子の間から長い腕を伸ばす。するとその声に答えるかのように、入口のドアがこちらに向かってうなり、白煙と共に吹き飛んだ。