元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する

「私もそう思う」

ハッとそこにいる全員が顔を上げた。いつの間にか入口のドアが開いていた。

ピストルを構えたまま、クリストフがちらりと後ろを振り返る。そして灰色の目を見開くと、そのまま動きを止めてしまった。

「ごめん。外がカオスになってて脱出できなかった。合流しようと思ってびっくりだよ。話は聞かせてもらった」

そう言ったアドルフさんが赤い髪を乗せた頭をぽりぽりと掻く。その隣に立っていたのはエカベト国王だった。国王陛下は痩せてしまったようだけど、目には威厳が溢れている。

「ヴェルナー元帥、そなたこそ人々を導く立場にあるべきだ」

「国王陛下、なぜ……こいつは……」

祖国の仇をかばう国王陛下を、クリストフは呆然自失の表情で見つめた。

「彼を殺してはならん。我が国民が命を落としたのは、私の罪だ。ムキになって国民に無謀な出兵を命じた、私のな……」

「そんなことは……」

「いいのだよ、若いの。さあ、ピストルをしまってくれないか。新しい時代の幕開けを邪魔してはいけない」

優しく微笑むエカベト国王の声に打たれたように、クリストフは膝から床に崩れ落ちた。

ピストルが落ち、毛足の長い絨毯に沈む。クリストフは四つん這いになり、絨毯が毟れるくらい握りしめて、嗚咽を漏らしはじめた。

彼の長い企みが目の前で崩れ落ちていくのを見て、体から力が抜けていく。そんな私を、レオンハルト様が後ろから抱きしめた。

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