元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
──三カ月後。
私が初めてヴェルナー艦隊の一員として乗った戦艦のデッキから、レオンハルト様が港に集まった市民に向かって手を振る。熱狂と歓喜があちこちに咲き乱れた。
それはエカベトから凱旋したときの状況を想起させ、自然と頬が緩んだ。
今日のレオンハルト様は頭上に冠を戴き、皇帝の証であるマントと杖まで身に付けている。その姿は近年のどの皇帝よりも神々しく、見る者を圧倒する。
その隣に立つ私は、純白のウエディングドレス。頭の上には白銀のティアラ。長いベールが背中に流れている。肩から袖はレースでできていて、左腕の傷を隠してくれる。膨らみすぎないスカートのすそには銀色の糸で刺繍がしてあった。
どうして私たちがこんな格好をしているかというと、その原因は二カ月前に遡る。
殺害された前皇帝は独身であったため、皇位を継ぐ子供がいなかった。そのため、とりあえず次の皇帝に選ばれたのは前皇帝の兄だった。
彼は一度帝位につくも、門閥貴族たちの言いなりにはならず、すぐに皇帝の印鑑を押した書類を勝手に公布してしまった。
それには『余は体調不良のため、帝位から退くことを決定した。次の皇帝にはレオンハルト・ヴェルナー元帥を任命し、彼にアルバトゥス帝国の全権を委ねる。以上』とだけ書かれていた。
貴族の中には権力を狙ったレオンハルト様が新皇帝を脅したのではないかと疑っているみたいだけど、実はそうではない。
新皇帝は権力よりも自由を欲した。レオンハルト様を直々に呼び、『余は歴史の研究がしたいから、皇帝の職務にあたっている時間が惜しい。そなた、やってくれぬか』と相談をもちかけたのだった。