元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
そうか、治療をしやすいようにと気遣ってくれたのかもしれないな。宿舎だと、治療中に誰がやってくるかわからない。うっかり服を脱いだところを見られたりしたら一大事だもの。
まあそれは船の中でも一緒なのだけど……。これからはより一層気をつけよう。
「さあ、寝るぞ」
レオンハルト様はひとりだけ、宿屋のお風呂を借りた。湯気が立ち昇る体にバスローブだけを身に付け、ベッドに腰かけて隣をぺんぺんと叩く。ここに来いって意味か。
「私はここで結構です」
彼がいないうちに体ふきを済ませた私は、ソファで寝ようとした。昨日は流されて一夜を共にしてしまったけど、毎晩相手を務めるわけにはいかない。
「副官としての仕事を全うするために、睡眠は大事です。体力も温存しておきたい。そして、毎晩情事にふけっていると堕落しそうな気がしてなりません」
本気で言った私を見て、レオンハルト様は吹き出す。
「堕落って。真面目か」
何がおかしいの。歴史上、支配者が色に溺れて身を滅ぼした例は数えきれないほどあるというのに。そう反論するとレオンハルト様はふんと鼻をならした。
「情事は愛を深めるために欠かせないものじゃないか。触れ合いがなくなって冷え切る夫婦の方が、お前の言う支配者より大勢いる」