鬼の生き様

 二月九日、本庄宿に池田は疲弊した身体を休める為に勇達の気配りで早くに宿に入り休んでいた。

「池田さんもゆっくり出来ていればよいのだが」

「私が休んでくれと言ってしまったせいで佐々木さんにも御負担をおかけしてしまい面目無い」

「何を言うかね近藤くん。
私のような年寄りでも、御公儀の為ならば骨身を惜しまず働きたいのだよ。
我等は同志で、困ったときは助け合うのは当たり前ではないか」

如水はそう言うが、今日はよく歩いた。
もう足は棒のようにクタクタになってしまっている。

あとは無事に浪士達を収納するのみだが、佐々木只三郎が馬を飛ばしてやって来た。

「佐々木様、いかがなさいましたか?」

只三郎は呆れたような顔をして馬から降りた。

「あの芹沢鴨という男の部屋を一人部屋にして頂きたいのだが」

「なんでまた」

もう本庄宿の宿は全て埋まっている。

「あの男、連日連夜と酒を呑んでは大騒ぎをしていると同じ宿舎の者から苦情がきてる。
仲間と相部屋というのがよくない。
切り離さなければ、また騒ぐだろう」

しかし芹沢の部屋を探す事は不可能だ。
池田が今寝ている部屋も清河や山岡が後々入る事となっている。

「まぁ、そういう事だからよろしく頼む」

只三郎はそう言うと、馬に跨り再び東下した。
一人一人、部屋を詰めていったとしても狭くなるだけで一人部屋にはならない。


「参ったなぁ」


勇と如水は深いため息をついた。
しかしこうなれば、探さなければならない。
一件一件回って行くが、どこも宿が空いていないのだ。

一人部屋は無理でもせめて芹沢一派である新見錦、平山五郎、平間重助、野口健司と離す事さえ出来れば只三郎も納得が行くだろう。

「致し方ない…。こうなれば他の隊の誰かと相部屋にしてもらうしかないか」


「谷右京(たにうきょう)さんのいる五番隊に頼んでみよう。
彼もまた人格者だ」

 谷右京は五番組の山本仙之助こと祐天仙之助(ゆうてんせんのすけ)の組に属されている丹波柏原藩の元藩士でこの時六十三歳であった。

< 150 / 287 >

この作品をシェア

pagetop