鬼の生き様
「同組にいる祐天仙之助は甲府博徒の一人らしいが、その博打打ちの祐天が大人しく我等に付いてきているのは谷右京さんがいるからに違いない」
如水も六十二歳だが、谷右京も六十三歳と高齢であった。
祐天仙之助は子分の内田佐太郎、若林宗兵衛、石原新作、千野栄太郎、大森濱治らを引き連れ浪士組に参加し、五番組小頭と任命されていたのだ。
暴れ馬同士の部屋では、火に油を注ぐようなものだと勇は思ったが、谷右京という男はその祐天仙之助をこの短期間で、見事に飼い慣らしているというのだから驚きである。
谷右京ならば、芹沢も大人しくさせる事が出来るかもしれない、と如水の意見に従う事に決めた。
しばらくして浪士達がやって来た。
勇は、派手な着流しを着たいかにも博打打ちの格好をした男、祐天仙之助を見つけ出すと声をかけた。
「祐天仙之助殿ですよね」
「なんだ若造」
「私は道中先番宿割を務めている近藤勇と申します。
この度、三番組小頭の芹沢鴨先生と相部屋にさせて頂きたく思い参りました」
祐天は豪快に笑うと「そうかそうか、俺の子分になりてえって事か」と言った。
そんな祐天を見て子分達も一緒になって笑う。
(はたして本当に大丈夫なのだろうか)
勇は胃が痛くなるのを感じ取ったが、
「コラ、仙之助。
まだ子分だの親分だの言っているのか!」
群を抜いて年を召している男、この者こそが谷右京であろう。
谷の一喝に少し祐天は怯んだ表情を浮かべた。
「しかし近藤、俺らには谷さんというジイ様だって同部屋なんだ。
悪いが他を当たってくれねえかね」
「我儘を言うんでないよ。
一人増えようと減ろうと変わらんでしょう。
近藤さん、芹沢鴨さんお引き受けしよう」
一体、谷右京という男は何故ここまで祐天仙之助を飼いならしたのかは知る由もなかったが、谷は人の良さそうな笑顔を浮かべた。
「いつもワシらの宿を手配して頂き、かたじけない。
小汚い連中ばかりの部屋ですが、どうぞお招きください」
ホッとした。
これにて一件落着である。