鬼の生き様
新見の確固たる信念は揺るぎないだろう。
そこまで追い詰めていた自分が情けない。
(もしも新見が…ワシと出会って居なくて、近藤と出会ってれば…きっと輝かしい生涯が待ち受けていたんだろうな)
芹沢は己の小指を見つめてから、視線を上げ傷だらけになった新見にそっと呟くように言った。
「お前一人が抱え込むんじゃねえよ。
もう、これ以上、テメエの名前を汚すような事をするな…」
義兄として義弟を守る。
義兄弟の契りというのは篤いもので、芹沢はこれ以上新見に、汚名を着させない覚悟を決めた。
「河上彦斎とは縁を切れ。
御倉とやらとも、もう関わるな…」
「もう、後にゃ退けねぇんですよ」
「このままだとお前は間者だと疑われる。
精忠浪士組、局長・新見錦として恥ずかしくない生き方をしてくれ…。
これが、俺の願いだ…新見」
「もう土方を仕損じた事は仕方がないが、俺が居たならば、芹沢さんの立場が危うくなるだろうから、俺は精忠浪士組を離れる…。
また、必ずアンタの所に戻ってくる。
そん時ャ、芹沢さん、あんたが総大将だ」
芹沢は泣き出しそうに切実な声。
遠い星の瞬きのような、寂しげに震える声で「もういい…行け」と言った。
芹沢は一人になりたかった。
何も考えたくなかったが、自らの手を汚してまでも新見は何かを成し遂げようとしてくれていた。
新見を自室へと戻すと、目尻がわずかばかり上がって、引き締まった顔になった。
惨憺たる室内をぐるりと見渡した。
「新見よ。
お前一人で、こんな辛い思いをさせてしまって申し訳なかった…。
もうこんな思いは絶対にさせんぞ」
芹沢は一人でそう呟いた。
その日の晩から、新見は壬生浪士組から居なくなった。