鬼の生き様
黒装束に身を包み、頬被りをした四人の侍、いや鬼が八木邸の前にいた。
「重さんは救ってやりてえな」
左之助はそう言うと、ハッとした顔をした。
心の声がそのまま、口に出てしまった。
やはり同じ釜の飯を食った同志を斬るなんて、ましてや平間重助は人の良い男で、試衛館でいうところの井上源三郎と姿を重ねて見ていて、〝江戸の源さん、水戸の重さん〟と左之助は親しみを込めて呼んでいた。
「芹沢と平山は奥の十畳間で寝ている。
平間は玄関近くの部屋だ。
俺と総司は芹沢と平山をやる。
平間は…左之助と山南さんがよろしく頼む」
歳三はそう言うが、総司は浮かない表情を浮かべている。
「お梅さんや他の女性の方々はどうするんですか?」
歳三はしばらく目を瞑ったが、三人を真剣な眼差しで見つめた。
「躊躇(ためら)った奴が死ぬんだ」
歳三は炯々とした目つきでそう言った。
妥協は出来ない。その言葉を聞き、山南は頷いた。
「いいな。覚悟は出来たか?
もう後にゃ引けねえぜ」
一同は頷いた。
雨はしきりに強くなり、雷の轟きが地震のように屋敷を揺らした。
戸を開け、音を立てぬよう細心の注意を払い各自持ち場へとつく。
奥の間に行き襖を開けると、平山と芹沢の鼾が聞こえ、寝ているのが確認できた。
しかし平山の隣に吉栄はおらず、少しだけ締め付けられる胸の痛みが和らいだ。
歳三と総司はゆっくりと刀を抜き、八相に構え二人で目を合わせコクリと頷き合った。
(平山さん…御免)
総司は平山の首をめがけて一振り。
血煙を上げ、首の皮一枚を残して絶命。
平山五郎、享年三十五歳であった。