鬼の生き様

 芹沢が斬り込んできて、それを歳三は鎬(しのぎ)で受けてそのまま鍔迫り合いをもっていく。
さすがは芹沢だ。このような身体でもなお芹沢の力は強かった。

こんなところで死ぬわけにはいかない。
獄に入れられた際に死罪だと言い渡され、大赦されてから新見が死ぬまでは惰性に死に場所を探しながら生きてきたが、ようやく歳三や勇、新しい同志と出会い生きる意義を見つけたのである。

生きたいという欲とは裏腹に、無情にも総司は間髪入れずに突きを繰り出す。

ずぶりずぶりと入り込む刀の感触が気持ち悪かったが、それでもなお芹沢が倒れることはなく肩で息をしながら言葉を紡いだ。

「あの新見を…どんな想いで差し出したか……。
新見の……死は、なんだったんだ…」

いい加減死んでくれ、と総司は懇願した。
歳三も総司ももうこれ以上、芹沢を斬りたくなんてない。

芹沢は吐血をすると、観念したかのように刀をだらんと下げた。
もう戦えないほど傷を作り、血が出た。


「これが…お前たちのやり方か……。
汚い、士道というものは…ないのか。
あれほど……武士に憧れてきたお前に…士道は無いのかァ」


芹沢は刀を杖のように地面に突き刺しながら、ゆっくりとお梅の元へと向かった。
足は崩れフラフラとしている。
お梅の側に辿り着く前に、芹沢は文机に足をひっかけ倒れた。


「芹沢さん…あんたの死は絶対に無駄にしないぜ……。すまん」


歳三は倒れた芹沢にひと突き。
芹沢は絶命した。
芹沢鴨の死に様は、誰もが忘れられないものとなった。

 山南と左之助は抜き身の刀を持ちながら戻ってきた。
左之助の刀は切っ先が赤黒い血で滲んでいる。
それは平間重助が死んだ事を表しているかのように。


糸里は寝ている為、手を下さなかったという。

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