婚約恋愛〜次期社長の独占ジェラシー〜
 そして両親と共にやってきたのは、一週間前に傷心したわたしが逃げるようにあとにしたあのホテルだった。
 
 なんか幸先悪そう……。

 そんなことを思いながらホテルを抜けて、日本庭園の一角にある有名料亭の隠れ家のような建物に到着した。

 このお見合い、ずいぶん奮発したようだ。わたしは大手化粧品会社、パルフェ・ミューズ・ジャパンの広報室に勤めており、以前、会食の場所を調べていたときにここの情報を見たことがある。コース料理はひとり三万円前後のお値段で、あまりの高さにギョッとしてしまったのを記憶している。
 
 
 年配の上品な仲居さんに案内されて、五部屋の個室があるうちのひと部屋へ案内された。

「お連れさまはすでにいらしております」とのこと。

 その言葉にわたしの緊張感が増した。顔が引きつっているかもしれない。両手で頬をほぐすように動かす。

 初のお見合いを設定して、わたしのように緊張しているのではないかと思っていた両親は、予想に反し楽しそうに個室の中へ入っていく。

 わたしは若干しり込みしながら俯き、震える足で続いた。

 次の瞬間、相手から素っ頓狂な声が聞こえ、わたしはハッと顔を上げた。

 目の前に、わたしたちを出迎えるために立ち上がったご両親と、京(きょう)平(へい)がいた。

「な、なんで京平がここにいるのっ!?」

 これはなにかの間違い。京平がお見合い相手だなんてあり得ない。

 もう京平のことは忘れて、幸せな道を見つける。そう思っていたのに……。
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