無慈悲な部長に甘く求愛されてます
うちの社長、つまりホダカ・ホールディングスのトップである穂高壱弥(ほだかいちや)代表取締役CEOは、私たちと同じ人間だとは思えないほど完璧な存在だ。
設立間もないベンチャー企業ながら東証一部上場を達成させた辣腕で、まだ33歳という若さにくわえて外見もよく、しかも独身らしい。
私はほとんど接する機会がないけれど、社内で見かける社長は、貼りつけたようにいつも同じ顔をしている。
なんの感情もない、無の表情。
その雰囲気をクールと言い表して好意的にとらえる人も多いけれど、私はちょっとだけ苦手だ。
なにを考えているのかわからない人は、少し恐い。
「社長の指示で、深水(ふかみ)さんがケーキを選んできたんじゃないかな」
私が言うと、真凛は「まあねえ」とうなずいた。
「それが妥当な考え方よね」
おかしそうに笑いながら、赤ワインを飲み干す。
「穂高社長、秘書の深水さん、それから冴島部長。うちの男前トップスリーはそろいもそろって独身なのか。それなら26の私はまだ焦らなくていいかなって気分になるわ」