無慈悲な部長に甘く求愛されてます

 うちの社長、つまりホダカ・ホールディングスのトップである穂高壱弥(ほだかいちや)代表取締役CEOは、私たちと同じ人間だとは思えないほど完璧な存在だ。

 設立間もないベンチャー企業ながら東証一部上場を達成させた辣腕で、まだ33歳という若さにくわえて外見もよく、しかも独身らしい。

 私はほとんど接する機会がないけれど、社内で見かける社長は、貼りつけたようにいつも同じ顔をしている。

 なんの感情もない、無の表情。

 その雰囲気をクールと言い表して好意的にとらえる人も多いけれど、私はちょっとだけ苦手だ。

 なにを考えているのかわからない人は、少し恐い。

「社長の指示で、深水(ふかみ)さんがケーキを選んできたんじゃないかな」

 私が言うと、真凛は「まあねえ」とうなずいた。

「それが妥当な考え方よね」

 おかしそうに笑いながら、赤ワインを飲み干す。

「穂高社長、秘書の深水さん、それから冴島部長。うちの男前トップスリーはそろいもそろって独身なのか。それなら26の私はまだ焦らなくていいかなって気分になるわ」
< 10 / 180 >

この作品をシェア

pagetop