無慈悲な部長に甘く求愛されてます
 
 私は真凛が言った名前の人物をひとりずつ、順番に思い浮かべてみる。

 クールな辣腕社長に、社長秘書の深水さんに、営業統括部長の冴島さん。

 深水さんは社長のぴりりとした雰囲気をうまい具合に中和してくれる穏やかな人だ。

 彼が社長と社員のあいだをうまく取り持ってくれているおかげであの会社は滞りなく回っている気がする。

 それから私は、定時を迎えると同時にフロアを出て行った冴島部長の背中を思い出した。

 同じように恐い人なら、社長より部長のほうがいいな。

 感情が見えない社長よりも、周囲から鬼と囁かれている部長のほうが、人間味があるように思える。

 もちろん、怒られるのはまっぴらだけど。

「そういえば冴島さん、今日は速攻で帰ってたじゃない」

 営業部門からは少し離れた場所にいるはずの真凛も気づいていたらしい。

 それだけ、冴島部長の素早い帰宅がめずらしいということだ。
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