無慈悲な部長に甘く求愛されてます

 仕事を片付けて帰り支度を始めながら、私はがらんとしたフロアを見渡した。

 行儀よく整列したデスクに静かな暗闇が降りている。

 これまで経験がなかったから考えもしなかったけれど、社内恋愛ってどういうタイミングで公にするのだろう。

 本来直属の上司である江田部長とか、松田先輩には伝えたほうがいいのかな。

 営業部の面々に知られたときのことを想像して、ちょっとぞっとしてしまった。

 彼らが鬼上司と信じて疑わない冴島さんは、仕事が恋人なのだ。

 そんな彼と私が付き合っていると知ったら、いったいどんな反応をされるのだろう。

 池崎さんあたりはしつこく質問攻めにしてきそう……。

 考えただけでげんなりしてしまった。

 もうちょっといろいろ気をつけたほうがいいかも。

 冴島さんにも注意してもらうように言わなきゃ。

 ……でも。

 薄手のコートを羽織って出口に向かいながら、きれいに片付いた法務部のデスクを見やる。 

 私と違い、いつも余裕があるうえに仕事も完璧な彼女は、机周りもきちんとしている。

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