無慈悲な部長に甘く求愛されてます

 空と地の狭間に浮かんでいるようで、ちょっとだけ心もとない。

 そんな不安も、目の前の料理に目を移せばあっというまに消し飛ぶ。

「牛フィレ肉のロッシーニ風でございます」

 給仕の男性が、牛フィレ肉の上にソテーしたフォアグラと粗くカットされたトリュフがふんだんに散らされたお皿を私の目の前に置いていく。

「こ……これも食べていいんですか?」

 答えはわかっているのに、確認せずにはいられなかった。

「もちろん」

 正面に座った冴島さんが、笑いをこらえるように頷く。彼の前にももちろん同じ皿が置かれている。

「だって、今、メインのお魚を食べたばっかりなのに」

 ついさっき平らげた鮮魚のムニエルも、頬が落ちてしまいそうに美味しかった。

「魚料理と肉料理、両方出てくるんだよ」

 鬼の異名なんてどこへやら、すっかり微笑みが板に付いた冴島さんを、そっとうかがう。

 当然だろ、という顔をしていますが冴島さん、私が毎年真凛と食べるクリスマスディナーは、魚と肉、どちらかひとつを選ぶコースなんです。

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