生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「お察しの通りです。アシュレイ家の魔力持ちは傍系まで含めて色の濃さに差はあれど本来なら碧眼です。私が異例なのです。本家の生まれでありながら、一目で分かるほどに圧倒的に魔力が足りない」

 故に"劣等種"。
 緑味の混ざった碧眼どころか完全に翡翠色のその瞳にはアシュレイ家の魔術師を名乗る資格がないと、幾度も囁かれた過去がある。
 だが、悲観などしていないのだとリーリエが口にするより先にテオドールが口を開いた。

「見る目がないな。こんなに綺麗な色をしているというのに」

 その声には憐れみも同情もなく、淡々とただ当たり前に思った事を口にしたという響きしかなくて。

「俺は好きだがな。翡翠色」

 まるで自分の事が好きだと言われたみたいで、勘違いしそうになる。

「リーリエ? 顔が紅いが……」

 リーリエは口元を抑えて視線をテオドールから外す。
 真っ向から当たり前のように言われたら、どう反応すれば良いのか困ってしまう。

「あーもぅ、私は旦那さまのそういうところが」

 好きだと言いそうになった自分に驚き、

「尊いの極みか。推せる要素しか見当たらない」

 リーリエは途中から言葉を変えた。

「何だそれは」

 テオドールはいつもと変わらないリーリエに苦笑する。

「私も好きなんです。この色」

 すっかり緊張が解けたリーリエは、彼女らしく微笑んだ。

「劣等種のレッテルの話気になります? 何で私だけこの目の色になったかとか?」

「別に。リーリエはリーリエだし。劣等種なんて言われたら、油断してるのをいいことに相手の喉元に喰らいつくくらいやりそうだ」

「ふふ、流石私の旦那さま。よく分かってらっしゃる」

 テオドールは当たり前のように、こんな自分を受け入れてくれるから。
 どんな自分だったとしても受け入れてくれると信じられるから。

「私、本日は俄然やる気になりました。見ていてくださいね。本日の私、ちょっとすごいですよ?」

 最推しの前で無様な姿は晒せない。
 リーリエは魔術師としての本領を発揮する事にした。
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