生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「……リィ、外で絶対それやるなよ?」

「……それ? 外ではもちろん、ご迷惑をおかけしないように淑女らしく振る舞いますが」

 疑問符を掲げるリーリエに、これは絶対分かってないとテオドールは苦笑する。
 リーリエは自分について鈍過ぎる、とテオドールは思う。前々から無防備だと思う事が多々あったが、計算されていない彼女本来の仕草が表情が話し方や声音が可愛過ぎる。この状態の彼女にじっと見つめられて堕ちない相手はいないだろう。
 "天然人たらし"とルイスが言っていたのは正しかったようだ。

「さて、そろそろ出るか」

「いってらっしゃいませ、旦那さま。ご武運を」

「ああ、リィも」

 と言いかけて、テオドールはリーリエに傅く。

「今日が幸多からん事を。何か有れば俺を呼べ」

 そう言ってリーリエの手の甲に口付けた。

「解釈違いっ!! テオドール様はそんな簡単に傅かないっ!!」

 リーリエは座り込み、テオドールと目線を合わせるとそう言って怒る。

「俺は何で怒られたんだ? リィはこういうの好きかと思ったが」

「好きか嫌いかの2択なら大好物です。ありがとう! これがゼノ様ならテンション上がりますね。でも解釈違いなので、旦那さまはやらないで欲しいです」

 はぁ、とこれ見よがしにリーリエはため息をつく。

「一国の王子が、しかも騎士団の隊長格が簡単に傅かない。そもそもあなたそういうことやるタイプじゃないでしょう? 私が喜ぶかも、みたいなノリでやられたらむしろ萎える。ダメ、絶対。あと、お仕事中なのに旦那さまのこと呼びませんよ? ちゃんと仕事して来てください。何か有れば自分で対処します。できなくとも周りを使います。可愛く囲える恋に恋する純粋培養の貴族令嬢との甘い生活をご希望なら今すぐ相手を変える事をお勧めします。以上」

 一気に早口で捲し立てるリーリエに朝っぱらからよくこれだけ舌がまわるなと別のところで関心するテオドール。

「あなたはそのままでいいんですよ。らしくない真似事など、嬉しくもなんともない。ましてや仕事を途中で放り投げる夫など願い下げです」

 ふっとリーリエは笑って、テオドールの頬に触れる。

「いつものあなたがいいのです。観客《わたくし》の目など気にしないで。誰に何を思われるかなどで迷わないで。大事な一戦なのでしょう?」

 そんな事で嫌ったりしないから、とテオドールは言われた気がした。どうして彼女はこうも見透かしてしまうのか。

「敵わない、な」

 大きなため息をついたテオドールは、吐き出すようにそう言ったテオドールはリーリエを引き上げながら立ち上がる。

「無茶はしてくれるなよ、リーリエ」

「ええ、お互いに」

 この部屋を一歩出れば、そこから先はそれぞれの戦場だ。
 負けられない一戦を戦うために、それぞれのフィールドへ歩み出した。
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