生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

86.生贄姫は答えを探す。

 第一騎士団研究棟。
 定時をとっくに過ぎた頃、そこを訪ねたテオドールをフィオナが迎え入れる。

「クロ、過保護」

「迎えに来ないと何日でも帰って来ないだろうが」

 ため息混じりにそういったテオドールにクスクス笑うフィオナは、ランプを召喚させ異界の書庫まで道案内をする。

「リリ、潜ったまま出てこない。また意識飛んでるかも」

「あいつ、書庫の本読み切るまで探す気か?」

「覚えるまで、見つかるまで、何周でもする気……かも? すごい、集中力」

 良き良きとフィオナはリーリエを褒めながら地下へと降りて行く。その後ろをついて歩くテオドールは、そうだなと肯定した。
 最近のリーリエの外出先はもっぱらフィオナが解放してくれた異界の書庫で、ずっと探し物をしている。
 合同演習の日、何故レオンハルトとやり合っていたのかその話はリーリエから聞かされず、仮説が立つまで待ってほしいと言われたまま今日に至る。
 アレ以降魔術省からリーリエへの接触はなく、レオンハルトとやり合っていた事実すら表には出てきていない。

「クロ、忙しそう。兼任、大変?」

 テオドールは合同演習以降第一騎士団の隊長代理も兼任しており、夢魔騒動で負傷してしまった第一騎士団隊長およびそれに属する全ての負傷者の身柄は丁重に王立中央病院で治療中、というのが表向きの話になっている。

「別に。全数"生捕り"に比べればさして大変じゃない。うちは"討伐"専門なんでな」

「……物騒」

 夢魔被害に乗じてテオドールを害そうとした事実も、その裏にルイスの失脚を狙った動きがあったことも、すべて表には出てこない。

「子ども達、見つかってよかった。けど、見つかった亜種、結局魔術省が持って行った」

 騎士団合同演習という形でルイスの権限が届くところで、行うはずだったそれらはテオドールがリーリエを救出、フィオナに預けている間に掻っ攫われていた。

「途中までだけど、うちの解析結果と合わない。矛盾。気持ち悪いデータ。全然、説明つかない。のに、また、あそこはそれで押し切る、の?」

 攫われた子ども達は、一応生存した状態で保護できたが、魔力を著しく抜かれた状態で昏睡しており、未だに事情を聞ける状態ではなく、治療が優先されている。
< 181 / 276 >

この作品をシェア

pagetop