生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する

111.生贄姫はヒロインに売り込む。

 現在は人払いされ、ほとんど人の出入りがない離宮の庭園で優雅にミルクティーを飲みながら、リーリエは目の前に座る菫色の髪をした貴人を愛でる。

「で、何で私のところに来るわけ!?」

「ヴィオレッタ王女殿下におかれましては本日も大変可愛らしくいらっしゃいますね。まさか年上だとは存じ上げませんでした」

「何よ! 子どもっぽいって言いたいわけ?」

 やや喧嘩腰に話しかけてくるヴィオレッタを見ながら高級な懐かない猫を彷彿させるその姿が愛らしく、リーリエはにやけそうになる顔面を引き締める。

「あ、今度ドレス贈ってもいいですか!? ピンク色を基調としたフワッフワの膝丈ドレスなんていかがでしょうか」

「人の話を聞けぇー!! ていうか、私もう23才だから!!確かに童顔だけど、年齢的にキツいわ」

「"可愛い"に年齢も性別も国境も関係ありませんよ? この国の大魔導師なんて軽く30オーバーですけど、永遠の14才ですし」

 同じ学年にいても全く違和感なかったですよとリーリエはとてもいい笑顔で可愛いと言い切る。
 そんなリーリエに若干引き気味なヴィオレッタはいつ見ても完璧な淑女だった彼女は、こんな中身残念な感じだったかしらと必死に記憶を辿り、詐欺だと頭を抱えた。

「まぁ、私がパッケージ詐欺で驚かれるのは今更なので置いておいて、ヴィオレッタ様とお話しがしたくて来たのですよ」

「パッケージ詐欺って何!? ていうか、あなたと話す事なんて私には無いわよ」

「まぁ、まぁ、そう警戒なさらず。ヴィオレッタ様は長いので、ヴィ様とお呼びしてもよろしいでしょうか? 私の事はどうぞリリとお呼びください」

「距離の詰め方おかしいでしょ!? 私あなたの婚約者奪って他国に追いやった女よ?」

「アレで良かったら熨斗つけて差し上げます。というよりも返されても困ります」

 ぐっとこぶしを小さく握りしめ、意を決したように自分の悪行を告白したヴィオレッタに真顔でそう言ったリーリエは、

「その際は本当にご尽力いただき、ありがとうございました。おかげでとてもスムーズにカナンで婚約解消ができ、アルカナで意中の方と政略結婚ができました。いやぁーもうあのアホ殿下と違ってヴィ様の計画は予測がつきやすくて無駄がなくグッジョブとしか言いようのない働きで、大いに利用させて頂きました。本当にありがとうございました」

 と一気にそう捲し立て、感謝を述べた。
 言いたいことを言ってスッキリしたリーリエはケーキを口に運び、あっこのケーキオススメですとヴィオレッタの皿に取り分ける。
 そんなマイペースなリーリエを見て、彼女の事をおそらくかなり誤解していたらしいとようやく気づいたヴィオレッタは大人しくミルクティーを口にしてため息をついた。
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