生贄姫は隣国の死神王子と送る平穏な毎日を所望する
「まぁ、でも幸いまだ拠点を移す前ですから、私としては活動拠点を隣国(アルカナ)に移しても今の時点なら差し支えありません」

 翡翠色の瞳はとても楽しそうにテオドールに問うた。

「私、先程宮廷魔術師のクビ宣告を受けましたし、働かざるもの食うべからず。好きにしていいのですよね、お父様。なら、テオドール様との婚約をもって監視も外れることですし、私明日にも公爵家を出て行くことにいたします。というわけで、テオドール様にお伺いします。今、結婚します? それとも10年後に結婚します? 私はどちらでも構いませんわ」

 いずれにしても明日から家出するからとリーリエはそう宣言する。
 そしてここにいる全員が知っている。
 リーリエはやると言ったら何がなんでもやる女である、と。
 リーリエが望んだ仕返しは、利権の絡まない無条件での結婚。
 この結婚においては両国間で、互いの利益についての話し合いの場など持たせてやらないとリーリエは主張した。

「さぁ、テオドール様どうします?」

 流石に10年待てる気がしなかったテオドールが選択するまで、数秒しかかからなかった。



「今更だけど、アシュレイ公爵がよく許したよね。交際婚約期間0日婚って」

 事の成り行きを聞き終えたルイスが、しみじみとそう言う。

「リィが言い出したら聞かないのは、今に始まったことではないしな。すぐ書類用意してくれた」

 こうなることも予想していたんだろうなという準備の良さだった、とテオドールは苦笑する。

「お前、囲うどころか、囲い込まれてるじゃん。よっぽど気に入られたんだな。ドンマイ」

 あの一家と付き合うの大変なんだよとルイスは苦笑気味にそう言った。

「まぁ、いいではありませんか。結婚なんてその場のノリと勢いですよ」

 書類上なんの問題もなくなった婚姻届を満足気に見てリーリエはそう笑う。

「そう言って最終的に全部欲しいもの持っていく。テオの努力の3年、一瞬でぶち壊す発言だねリリ。コレ後処理どうするだよ」

 立場ある人間が電撃結婚やっちゃダメだろと一応嗜めるルイスに、

「そんなの、仕返しなのだから父やルゥやテオ様に丸投げに決まっているじゃないですか」

 と当然のように言い切ったリーリエは、

「コレで正式にまた夫婦ですね。そんなわけで旦那さま。もう生贄姫も死神も必要のないこの国で、私と一緒に面白い事やらかしましょうか? 平穏な毎日を享受しながら」

 翡翠色の瞳をワクワクと子どものように輝かせ、楽しげに笑ってそう言った。
< 273 / 276 >

この作品をシェア

pagetop