クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 言い終わるのと同時に口づけられた。最後の言葉に軽く心乱される。けれど、どうせ本気じゃない。昔も、今も。幹弥にとって私は暇つぶしのおもちゃだ。

 私の代わりも、それ以上のものも彼の周りには溢れている。ただ、どうでもいいものでも、ほかの人間が使おうとすれば惜しくなる。多少の執着を見せる。まるで子どもみたい。

 私はちらりとこの部屋に来るまでに見た光景を思い出す。玄関の傘立てに花柄の女物の傘があったし、リビングのソファに、なにげなくかけられていたコートも女性のものだ。

 幹弥は確かに独身かもしれない。でも恋人は? 恋人にさえなりえなくても家に来る女性は? 現に私の存在だって……。

 変なの。もう体も心もボロボロで、乾ききっていたと思っていたのに。なら今、頬を濡らしているものは? 体の奥から出てくるこの気持ちはなんなの?

 彼の長い指が拭うように私の目尻の辺りを滑る。そして、まるで怖いものなどなにもないとでも言い聞かせるように、優しく触れてきた。

 体温が伝わってきて、そのことにひどく安心する。温かくて、視界がますます滲んでいく。

 忘れるはずだったのに、なかったことにするつもりだったのに。十年前のことがありありと蘇ってくる。

 ねぇ。幹弥はなんで、どうして今、このタイミングで私の前に現れたの? なんで、いつも私が――。

 開きかけた唇をぎゅっと結んだ。聞いても無駄だ、意味なんてない。彼の気持ちも、彼の真意もけっして触れさせてもらえない。
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